編集者が真実を語る「光を当てた理由」[The yogis magazine]Vol.9_P068【チャールズ・チャップリン】

毎号掲載「Are you yogis?」ってどんなページ

[The yogis magazine]の中にある連載企画「Are you yogis?」は、直訳通り「あなたはヨギスですか?」という記事です。そもそも本のタイトルにもなっている“ヨギス”とは、ヨガをする人達すべてを指す言葉。20年前、編集部ではヨガをする女性のことを「ヨギーニ」と呼ぶように固定化し、それが一般化しましたが、今やヨガをしている男性も増えたので、性別を固定しない呼び方を作ったのです。

なので本誌で「Are you yogis?」と言えば、あなたはヨガをする人ですか? とシンプルに聞いていることになります。わざわざ疑問形にしているのは、ここに登場する著名人は、ヨガをしていましたと言っていたり、わかっていたりするわけではないから。だから紹介基準は、その生き様の中に、ヨガ的な考え方や行動があると、“編集部が思っている”人です。

これまで取り上げたのは、創刊号の岡本太郎を筆頭に、白洲次郎、モハメド・アリ、マハトマ・ガンディーなど。彼らの中にあるヨガ的な精神に焦点を当てて、人生と、その言動を紹介。そして、根底には「編集部ではこの人達の生き方はヨガと思っています。読者の皆さんはどうですか?」だし、ご本人としてはどうですか? という問いも含まれているのです。

ちなみに、ヨガ的な考え方や言動とは、ヨガの哲学の中にあるものを土台にしています。非暴力、真実を言う、欲張らない、足を知るなどの道徳律や、手放す、今を生きる、あらゆるものと自分はつながっているといったことなどを体現してきた人に、「あなたはヨガをしていたんですかね?」と問いかけ、その生き方のこんなところがヨガだと思うという編集部の思いを記事にしています。

今回フィーチャーしたのはあの「チャップリン」

Vol.9で紹介したのは、20世紀を代表する喜劇王、チャールズ・チャップリンです。監督、脚本、主演を務め、すべての映画を世界中で大ヒットさせた彼は、活動の拠点としていたハリウッドから一度追放されますが、晩年には誤解が解けてハリウッド映画界で殿堂入りし、出身国のイギリスからは「サー」の称号をもらい、88歳の生涯を終えています。

さまざまな資料や本人の書いた自伝によれば、イギリスで生まれた彼は、幼いころに両親が離婚し、兄弟とともに芸人の母親に育てられました。しかし母親の収入は少なく極貧状態でした。

生活が大きく変わったのは、アメリカへ渡り、映画の世界へ入ってから。ある時、チャップリンと言えば、誰もがイメージするチョビ髭、小さな山高帽、ぶかぶかのズボンにタイトで短いジャケット、大きめの靴、ステッキというスタイルを生み出します。それにより人気が出て、彼が監督、脚本、主演でつくる短編はすべて大ヒット。長編へ切り替えてからも映画は歓迎され、時代を作っていったのです。

優しく、ユーモアな印象を大切にしたスタイル

チャップリンのスタイルは、自伝での翻訳では「浮浪者」と表現されています。このスタイルはもともとは「The Tramp」と呼ばれ、意味は他に「放浪者」、「あてもなく歩く人」。不安定な暮らしでありながら、常に紳士的でユーモラス、平和的でロマンチック、貧しくも気高い、不器用だけど優しいというキャラクター性の体現でした。

このスタイルは、一つの、ヨガの体現のようだなと思うのです。彼の持ち物はステッキと山高帽、サイズの合わない服や靴。形にとらわれず、必要以上のものを持たない。ステッキは優しさやジェントルをわかりやすく象徴している小道具です。映画の中の彼はいつも利他的であり、間違ったことをユーモラスに正し、弱い者に寄り添っています。The Trampはそのアイコン的なスタイルで、ヨガでいうアーサナ(ポーズ)と同じ価値観があるのではないでしょうか。

チャップリンが大切にしていた「笑い」は、人の心を温かくし、活力を与えてくれます。風刺を利かした表現を盛り込みながらも、その本質は人が優しくなれること、心の平和が得られる笑顔をもたらしてくれるものなのです。

長編映画『独裁者』という挑戦

チャップリンの代表作である長編映画『独裁者』は、1940年、第二次世界大戦中に公開されました。この映画は企画段階から、世界中が神経をとがらせていました。それは、ドイツのヒットラーやイタリアのムッソリーニなど、実在した独裁者を彷彿とさせるものだったからです。

実際に当時、チャップリンとヒットラーが、同じようなチョビ髭を生やしていることが世界で話題になっていました。そうした背景もあって、チャップリンはヒットラーサイドからはとても邪魔な存在。そこで、彼らはチャップリンをユダヤ人と決めつけ、排除しようとさまざまなップロパガンダを行っています。また、この映画を作ろうとするチャップリンには、ドイツを筆頭に、アメリカやイギリスなどからも圧力や妨害がありました。

それでもチャップリンはこの映画を作り上げ(そこには何度も推敲を重ねた脚本があり、撮り直しもありました)、世界に公開しました。そして、公開にこぎ着けると、戦局も変わっていたことから、今度はアメリカやイギリスで大絶賛されたのです。

結果的に『独裁者』が受け入れられたのは、チャップリンは欲や名誉のためにこの映画を作ったからではなく、「平和と平等」というコンセプトを世界に取り戻してほしいという一心を貫いたからだったのではないでしょうか。それは、結果にこだわらず「今ココ」でできるすべてのことを集中して行う、というカルマヨガにも通じる生き方と言えるでしょう。

平和と平等

「平和と平等」という思いのすべてが詰まっているのが、『独裁者』の最後のある、6分間続く演説です。これはVol.9の記事の最後に、編集部で翻訳したものを全文載せました。全部が大切な一つひとつの思いだからです。だから、流れで読んでほしいのですが、あえて、今回翻訳してみた筆者が抽出するならば、こんな言葉が載っています。

私達はみんなお互いを助け合いたいと思っています。人間とはそういうものです。

私達に必要なのは機械より人間性です。優しさ思いやりです。そうした本質を見失うと、人生は暴力的になり、すべてを失ってしまうのです。

あなたには力があります。(中略)この人生を自由で美しく、素晴らしい冒険にする力、その力を民主主義の名の下に使いましょう。

実は、これは自分自身の中の葛藤へのメッセージとしても読むことができます。私達ヨガをする人にとっては、そのほうがしっくりくるかもしれません。そんな視点で読んでほしいのが、次の言葉です。

兵士達よ! けだもの達に身をゆだねてはいけません。彼らはあなたを軽蔑し、奴隷にし、軍隊で使役させようとする。そして、何をして、何を考え、何を感じるかを指図し、訓練し、食べるものを制限し、家畜のように扱い、コマとして使おうとします。(中略)そんな自然の理に反する者達に身をゆだねないで下さい。

ヨギスとしては、このチャップリンの言葉は「本来の自分」からのメッセージとして読むこともできるのではないでしょうか。チャップリンの力強い演説が深く心に刺さるのは、彼自身の「ヨガ性」に私達が共感するからかもしれない…そんなことを思うのです。

チャップリンを取り上げた今回の「Are you yogis?」。気になる人はぜひ『独裁者』を観てほしいと思います。何百の解説本より、彼の一作がすべてを物語っています。そこから、私達が得る思いが真実なのだと思います。(編集部:大嶋朋子)

 

【The yogis magazine「Are you yogis?」でこれまで紹介してきた人】

この人の生き方はヨガではないか…と編集部が考え、その生き様からヨガ的な部分を探して紹介する連載企画「Are you yogis?」で取り上げてきた人達です。

Vol.1:岡本太郎

どんなものとも真剣にぶつかり合い、調和を求め続けた。まさに崇高なヨギの生き方では?

Vol.2:アルベルト・アインシュタイン

一般相対性理論を説いたアインシュタインは徹底した平和主義者だった。彼が求めた真の平和とは?

Vol.3:白洲次郎

第二次大戦後のGHQと対等に渡り合い、日本の誇りを守り続けた。彼を貫いていたのはプリンシプル=原則という考え方。

Vol.4:マザー・テレサ

インドで「貧しい人」のために奉仕したマザー・テレサ。彼女のキリスト教に根づいている活動を、ヨガ的に読み解く。

Vol.5:モハメド・アリ

ベトナム戦争の徴兵を断り、自分の意志を貫いた男が20世紀に残した足跡。

*Vol.6は休載。

Vol.7:マハトマ・ガンディー

「非暴力」を訴え、インドの独立を勝ち取った信念の人。インド哲学の教えが彼の“武器”だった。

Vol.8:杉原千畝

第二次世界大戦下、ユダヤ人へのビザ発給によって6000人の命を救った。その信念は「すべての命は平等だ」という思いだった。

 

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