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人の土台は12歳までに決まってしまう!? キッズヨガだからできること

四つの発達・発育曲線

 

「スキャモンの発達・発育曲線」というのがある(発達は体、発育は心の成長)。アメリカの人類学者だったリチャード・エバーリンガム・スキャモン(1883−1952)が提唱した、子どもの体と心の成長の仕方を表したグラフで、20歳を100%にした時、生まれてからどのように成長していくかを表している

 

これは、以下の四つの曲線からできている。

  1. 神経系型=脳や脊髄、視覚器、頭径を示していて、リズム感や体を動かすことの器用さ、そして頭をどう使っていくかの土台作り。
  2. リンパ系型=免疫力をつかさどる扁桃やリンパ節など、リンパ組織の発達。
  3. 一般型=身長、体重、呼吸器、消化器、肝臓などの胸腹部臓器の発達。
  4. 生殖器系型=男児の睾丸、陰茎、女児の卵巣や子宮の発達。

以下のグラフが「スキャモンの発達・発育曲線」だ。これを見ると、実は神経系型は12歳ででき上がってしまう。つまりコワイことに、小学校1年から中学校1年ぐらいまでで、将来の器用さや地頭のよさなどはほぼ決まってしまう、と言えるのだ。もちろん、それ以降も本人の努力次第で伸ばしていくことはできるが、12歳までの発育は圧倒的だ。

 

また、免疫をつかさどるリンパ系型も同じころに一番高く成長する。子どものころにリンパ系を強くしておくことは、将来にわたって健康を維持しやすくなるということだ。例えば風邪をひきやすいのか、いつも元気でいられるのかは、このあたりの過ごし方で分かれてしまう可能性がある。

こうやって見ると、12歳ごろまでの経験が人生においてとても大きいことは想像できるだろう。

 

四つの運動スキルをバランスよく行う

 

では、12歳までに何を経験しておくのがいいのだろうか。

一つは運動=体の動かし方だ。運動は四つの分野に分けることができ、成長期はこれらを偏りなく行う必要がある。

四つとは、横移動を伴う移動系運動スキル移動を伴わずその場で動く非移動系運動スキルバランス感覚を身につける平衡型運動スキル道具を使う操作系運動スキル。これらは体育の授業の中に入っているが、自分の小学生時代を思い出してみても、得意不得意があったはず。だから意識的にバランスを取っていく必要がある。

下の図を見るとわかるように、「体力」とは身体的要素と精神的要素のどちらの要素も含んでいて、運動をバランスよく行うことは同時に精神面を整え、精神面を整えることは運動スキルを引き伸ばすことにもつながる。相互に補い合っているからだ。

 

 

『日本キッズヨガ協会』代表理事のミナクシみよこ先生はこう話す。

「神経系の発育がおおむね止まるのが12歳と言われています。ですから、それまでの間に四つの運動スキルをバランスよく十分行わないと、体は成長しても思考力が伴わないとか、人にぶつかりやすいなど、心身のバランスが悪くなります成長が止まってしまう時期になるまでに、息が上がるほど運動することがオススメです。それによって心拍数を上げるわけですが、心拍を上げると体は緊急事態になったと認識し、それに必死に対応するようになって頭が使われ、免疫力なども活性化します

「私の長年の経験によると、今の子ども達の多くが運動も不十分だし、休みも不十分。だから心拍の高低差や情緒の高まり、落ち着きの差があまりなく、常にそわそわしています。心拍数が速くて呼吸が浅いんです。だから、はあはあするぐらいたくさん運動し、その後にシャヴァーサナをしてストンと休むと、体と心の陰陽のバランスが整えられるようになっていくようです。運動を終え、力を抜いて呼吸に意識を向けてリラックスすることで、体は安心するからでしょう。そのメリハリをクセづけていくと、だんだん落ち着いていく。そういうことをある程度頻度よく行うのは、集中力を高めるにも、体をリラックスさせるにも、情緒を安定させるにも必要なことだと思います」

これは、自分のことを自分でできるようになる能力を養っていることにもつながる。サバイバルまでいかずとも、自分がどんな状況にあって、今何をすればいいのかを判断できることは、とても大切な能力。大人になるとその大切さに気づくことだろう。これが身についていないと不安感が強くなったり、窮地に陥った時に思考が止まって自分を守れなくなる。しかし、そんな時に落ち着ける精神を養っておけば、「これがダメならこうすればいいんだ」と考えることができるようになる。体を追い込んだ時に対応できるという経験があれば、いざという時にも身を守れるようになるのだ。

 

五感への刺激が脳を発育させる

 

また、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感も鍛えておきたい五感は脳の発育に直接関係しやすく、これらを鍛えることで直観力、危険回避力、思いやり、情緒などが育まれていく。豊かな広がりのある色彩や真に質のいい芸術品やアート、さまざまな香り、いろいろな種類の音楽やリズム、読み聞かせ、硬いものや軟らかいものだけでなく不思議な感触のものに触れる、繊細な味わいやさまざまな味の食事をするなど、子どものうちに経験しておきたいものはたくさんある。質のいいものを幅広く用意しておきたい。

 

 

成長期は競争も必要

 

「勝ち負けがあったら、負けた子は、あの子はなぜ勝ったのか観察するようになり、それを次へのエネルギーへ変えていきます。一方、勝った子は、みんながいたから勝者になったと思うようになります。だから、勝ったことに対して思い切り喜んでいいんです。それが、継続のモチベーションにつながります」

「私の意見ですが、他人と比較したくないという気持ちは、経験があってツラかったから生まれる思い。比較してツラいとか悔しいと思うのは、大人になって時期が来たらすればいいし、そういう時に周りがサポートしたり、セルフケアできればいい。でも、子どものうちは、そこを先回りしなくていいと思うんです。五感があったら比較するのは普通のことで、それも子どもにはいい経験になるからです。経験がなければ判断ができなくなります。ケンカをしたことがあるから力加減がわかったり、危険回避をできるようになったりするのと一緒です。子どものうちは何ごとも経験を重ねるべきなのです」

 

今、子どもに起こっている問題

 

最近は、夜遅くまで起きている未就学児が増えています。それによって自律神経のバランスが崩れて、体にも心にも影響が出ています」(ミナクシ先生)

例えば、夜遅くまで起きていて朝起きられず、そのため朝食を取らず、午前中はボーッと過ごして、昼食後に急激に体と頭が動き出す。夕食後にまた急激に元気になり、夜遅くまで起きている。だから翌朝起きられない…という悪循環に陥っている子どもが増えているという。それは生活リズムを狂わせ、低体温や高体温など、体温調節ができない体を作ってしまうのだ。

「子どものうちから自律神経が失調して心にまで影響が出てしまっているのに、お母さんは気づかず、それを子どもの性格だと思ってしまい悩んだりしています。私の教えるキッズヨガを監修してくださっている、幼児体育の第一人者で、早稲田大学教授の前橋明先生はそれをとても危惧されていて、未就学児は夜8時には寝かしつけるべきだと話されています」(ミナクシ先生)

 

キッズヨガは体と心のどちらにも好影響

 

こうした子どもの発達・発育、また起こっている問題に対して、キッズヨガはどのように役立つのだろうか?

ミナクシ先生のキッズヨガを例に取ってみよう。

“発達・発育に合わせて、呼吸に集中する時間のある運動”が、私が教えているキッズヨガの定義です。対象は3−18歳と広いのですが、子どもと言われる範囲です」

「ヨガは、成長に合わせて3―4歳、5−8歳、9−12歳、13−18歳に分けています。3−4歳はまだ語彙力が少なく話が理解しづらいため、五感を刺激することが中心です。歌や音楽に合わせてリズムに乗せて展開していきます。5−8歳はキッズヨガとして一番メインのグループ。ストーリーに合わせて、イマジネーション豊かに想像してもらいながら、いろいろなポーズを展開していきます。9−12歳は第一次成長期もいったん終わり、想像力豊かな話はつまらなくなるし、乗ってくれなくなる。そこで持久力、体力を上げる、一般的な体育の中の体づくり運動を多く取り入れています。競争することもありますね。練習すればできることなどを行って、負けん気や根気を育成していくんです。13−18歳は思春期なので、心にもアプローチした言葉がけをします。内容は大人に近いヨガになっていきますね。心の育成も大事にしているので、『ヨーガスートラ』をベースにエッセンスを伝え、自分で考えて自分で行動できるように促していきます」

全部に共通するものは、セルフケアと自分らしさを見いだすこと自分一人ではなく、みんなとつながっていることを意識できること。自分は何が好きで何が嫌いかがわかってくるようになると、目標設定でき、夢を叶えるためにヨガを使えるようになります。セルフケアと自己実現ができるようになるのです

脳波に現れる効果

 

ミナクシ先生の生徒のうち、希望する家族は脳波を取って変化を測定している。ある家族は母親、父親、子ども二人(7歳、5歳の男児)という一家全員が、ヨガをする前と、ヨガを毎日行い3週間続けた後に、それぞれ脳波を取ったところ、大きな違いが現れた。親子とも活動的なベータ波の脳波からリラックスしたアルファ波に変わるのが早くなり、そのメリハリが大きくなったのだ。

「四つの分野の運動をバランスよく行ってもらい、瞑想や呼吸法、シャヴァーサナの時間も取ってもらって測定しました。他にも、生徒の親御さんからは、キッズヨガとリラックスのメリハリによってクラブ活動で成果が上がったとか、落ち着いて授業を受けられるようになった、瞑想の経験から落ち着いて座っていられるような時間が増えたり、集中する時間も延びているという話をよく聞きます。子ども達も続けていることが楽しいようで、実際にクラブなどで成績が上がったりするのは、ヨガの効果だと感じているようです」(ミナクシ先生)

 

【子どもの脳波データ】

家族1−2

 

 

世界の研究者も実証する効果

 

キッズヨガの効果は今、世界中でエビデンスが取られるようになっている。

例えば、2006年には、過敏性大腸症候群という、不安と緊張から腹痛や下痢を起こす疾患を持つ11〜18歳の28名の男女を、ヨガを行う実験群と、何もしない統制群に分けて、ヨガの効果を検証している。実験群の男女がビデオの誘導で4週間毎日ヨガを家で行ったところ、行わなかった男女に比べ、生活に支障を来す程度の「機能的障害」や不安が低下していたという結果が出ている。

2004年には、ADHD(注意欠如・多動症)の診断を受けた子ども達とその親(母親または父親のいずれか)が、週2回クリニックの瞑想クラスに参加し、家でも6週間瞑想を行った。すると集中困難性、過活動性、衝動性のどの症状も軽減したと、親からも担任の先生からも評価された。また、ADHDの精神科薬を投与されていた20名の子どものうち11名は薬の量が減り、参加した親の92%は、瞑想によって子どもに効果が上がったと答えた。

2005年に行われた実験では、教員らから「集中力に問題がある」として相談された小学校1〜3年生の子ども10名(うち7名が女児)が対象となり、子ども向けの30分のヨガを、週2回の頻度で3週間、家でビデオを見ながら行った。その後、集中力の変化を確認する。一つは学校で教師と視線を合わせていられる時間の測定、もう一つが学習課題に取り組んでいられる時間の測定だ。これを特に問題のない対称群と比較したところ、対称群の子ども達は実験期間中変化がなかったのに対し、実験群の子ども達の集中力は大きく向上したという。

*いずれも「ヨガの心理的効果についての調査研究」古宮昇、谷口弘一(2011)より参照

 

生活リズムを整える

 

前述の未就学児の生活リズムの乱れについても、キッズヨガは改善する可能性を含んでいる。子どもが夜寝られないのは昼間の活動強度が低くなっているからで、コロナ禍も大きな影響を及ぼしているが、屋外などで全身運動する時間が激減しているのが大きな理由の一つ。キッズヨガは、マットの上という限られた空間ながら、全身を動かして、意識的な呼吸をし、自分で自分の動きを調整していく。体を使い、自分を客観的に見て、自分と向き合っていく。そうすることで、体と頭に適度な心地よい疲れをもたらすのだ。それによって夜自然と眠くなる。夜眠れれば朝起きることができ、リズムが整っていく。生活リズムが整っていくことは、適切なホルモン分泌などを促し、心身の健康を維持することにつながっていく。

 

運動できる場所が減っている現在でも、マットさえあればどこでもできる全身運動であるキッズヨガ。これは、12歳までに行いたい4種類の運動の他、意識的な呼吸、落ち着きをもたらす瞑想、脳のシナプスを活性化させる五感への刺激、セルフケアできるようになる自己調整力を身につけるなど、さまざまなスキルを身につけることができるメソッドだ。子ども達の身体能力の向上も心の感受性を高めることも、明晰な頭脳を養う土台作りも、落ち着いてものごとを判断しトラブルから回復する力の育成など、さまざまな生きる能力を引き出すサポートをしてくれそうだ。

 

教えてくれた人

ミナクシみよこ

ヨガ歴23年、E-RYT500、AYUSHIlevel2 シヴァナンダヨーガ指導12年、キッズヨガ専門指導11年、キッズヨガYOGA-Ed–K8(3~15歳まで)講師。ヨガ指導者育成、葛飾区教育委員会家庭指導員、(一社)日本キッズヨガ協会代表理事。日本総合カウンセリング認定メンタルカウンセラー、アートセラピー、認知行動療法、コアボディセラピー。現在、早稲田大学人間科学学術院 前橋明教授共に、ヨガ教育の社会的地位の確立に向け、研究を続けている。

 

ミナクシみよこ先生の教えるキッズヨガ