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ヨーガ・スートラ ヨガをする人が読んでおきたい基本の教典

ヨガがエクササイズと異なるのは、哲学がありゴールがあること。その哲学が記されている『ヨーガ・スートラ』は実践者のガイドブック。

 

ラージャ・ヨガの実践を紹介

 

『ヨーガ・スートラ』はラージャ・ヨガを実践し、解脱を得るための知識と実践に関するヨガの教えが書かれた、言わばガイドブック。パタンジャリが編纂したヨガ哲学の根本教典で、「本来の自分とは?」を体験で知る知識(理論)が書かれている。

 

冒頭でパタンジャリは「心の働きを止滅して」、マインド(心)の活動を止めれば「真我は自分の本来の姿」にとどまる、それ以外の時は「真我は想念の中に同一化する」と教える。理論を支えるのはサーンキャ哲学だ。

 

『ヨーガ・スートラ』は12世紀初めから16世紀にいったん衰退するが、19世紀にヴェヴェーカーナンダが「自己実現への最高の瞑想の道」として再紹介した。

 

 

POINT

プルシャ

エゴや執着のない本来の自分。個人の心を超越した、純粋で無限の意識の場。真我とも呼ばれ、ヨガを通じて、この真我に至ることができる。

離欲(無執着)

知覚するしないにかかわらず、どんな対象にも欲求を持たない人が持つ自制心。何かに取り組む時は集中するが、その影響からは完全に自由。最高の離欲は真我における意識。

修習(継続的実践)

練習を日々欠かさず続けて、学びや経験を積み重ねていくこと。何かを達成したければ、忍耐を持って集中し継続して行うことを意味する。

識別知

ヨガでは、識別知は苦しみの根源とされる「無知」を取り除く知性と考える。ヨガの実践を通じて識別知を得ると心と真我の違いが見分けられ、真智を得て、苦しみは消える。

 

 

『ヨーガ・スートラ』の掲げるヨガの定義

 

1章2節

ヨーガス チッタ ヴルッティ ニローダハ

ヨーガとは心の作用を止滅することである。

 

 

『ヨーガ・スートラ』を実践する人は“動じない”

 

『ヨーガ・スートラ』を基にした、古典的なヨガの体系をラージャヨガと言う。体を動かすハタヨガの方法に加え、精神的実践に重きを置く。瞑想を行って集中力を高め、心の動きを止滅して真我に達することができると考えられている。

現代に生きる実践者は、例えば、職場でトラブルがあったとしても「私は今の瞬間を大事に生きる」と構えて、あたふたとしない不動の心の状態が目指すところ。すべてを外側の経験や知識で判断するのではなく、内なる叡智により正しくものごとを見極め、何が起きても平静な心を持てるように瞑想を続けていく。

 

もしも!「明日から来なくていいよ」と会社で言われたら

『ヨーガ・スートラ』の道を進んでいる人は、いいも悪いもカルマの法則から評価し、今を生きる。何が起こってる、ただ自分に起こるあらゆることは過去の行為の結果を受け取っているだけ。もしいきなり解雇されても、今この瞬間、同僚と一緒にいられること、ここに自分が存在していること、今しか味わえないこの状況をあるがままに受け入れて、苦しみがあってもそれを超えていける、創造的な生き方に満足できる。できることを行い、瞑想を通して考えればいいのだ。

 

 

サマーディに至る8部門「八支足」

 

『ヨーガ・スートラ』の核となるのは、2章から3章の冒頭にかけての8部門「八支則」(アシターンガヨガ)だ。「八支足」とは、サマーディと呼ばれる没我状態(三昧)を目指し、行っていくヨガの実践の解説。サマーディに至った時に、真我に気づくことができるとされる。ここでは、それぞれの部門を紹介しよう。

ヤマ

自分と他者との関係を制御する規則。アヒンサー(非暴力)、サテャ(真実を話す)、アステーヤ(盗まない)、ブラフマチャリャ(不適切な交わりを慎む)、アパリグラハ(ため込まない)の五つ。

ニヤマ

自分自身を制御する規則。シャウチャ(清浄に保つ)、サントーシャ(満足する)、タパス(熱を起こす)、スワディヤーヤ(自己学習、聖典の独習)、イーシワラ・プラニダーナ(至高の存在への完全な帰依、深い瞑想の体験)の五つ。

アーサナ

瞑想を行うための姿勢。

プラーナーヤーマ

呼吸の動きを静める。プラーナのコントロール。

プラテャーハーラ

五巻を制御し、外向きのココとを内向きに転換する。

ダーラナー

心の内側の対象に意識を保つ試み。自己意識と集中の対象がある。

ディヤーナ

心が散乱することなく、内側の対象に集中。自己意識と集中の対象がある。

サマーディ

完全な集中による没我状態。自己意識はなく、集中の対象だけが残っている。

 

ダーラナーからサマーディまでを理解するには映画鑑賞に例えるとわかりやすい。周囲が気になりつつ観照しているのがダーラナー、ストーリーに集中しているのがディヤーナ、映画に集中して我を忘れているのがサマーディだ。

 

Column

もともとは6部門だった!?

『ウパニシャド』文献には、八支足のうち、ヤマ、ニヤマ、アーサナではなく、タルカ(熟考)が入り6部門だった。しかしパタンジャリが編纂して『ヨーガ・スートラ』にタルカはなく、ヤマ、ニヤマ、アーサナが加わる。

 

第1章は仏教の影響が見られることから、パタンジャリは仏教の戒律からヤマ、ニヤマをヨガの実践の理論的な枠組みとして取り入れ、瞑想に耐えうる姿勢の重要性のためアーサナを加えたと考えられる。

 

 

ヨガの四大教典を読み比べ

 

ヴェーダ聖典

作者:ヴャーサ(編纂者)

年代:B.C.1100〜A.D.200年ごろ成立

構成:四大ヴェーダ聖典は『リグ・ヴェーダ』、『サーマ・ヴェーダ』、『ヤジュル・ヴェーダ』、『アタルヴァ・ヴェーダ』。ヴェーダは本集、梵書(禁儀書)、森林書、奥義書の4部門から成る聖典群の総称。

特色:本書はヴャーサが編纂したとされるが、一つひとつの聖句自体は、霊感を得た太古のリシと呼ばれる聖者達が、天から聞き授かったものと言われ、それらの書を『天啓聖典(しルティ)』と呼ぶ。ヴェーダは現代のインド文化の基礎となる思想で、宗教、哲学、医学(アーユルヴェーダ)、音楽、文学、ヨガなどあらゆる知識の源になっている。

 

バガヴァッド・ギーター

作者:ヴャーサ(とされる)

年代:B.C.150年ごろ原型成立〜A.D.100年ごろ現在の形に

構成:古代インドの叙事詩『マハー・バーラタ』の一部で、第6章に収められている、全18章700の詩編。戦場を舞台にした、主クリシュナとアルジュナ(主人公)の問答形式の物語。「イティハーサ」と呼ばれる伝承聖典の一つ。

特色:無知を取り除き、真理を悟るための知識を説いた、最終解脱へ導く指南書。アートマン(真我)と結びつき、一切の存在はブラフマン(根本原理)の表れと悟ることが目的だ。ヴェーダの教えを具体的にするため、神との問答形式になった。ウパニシャド、サーンキャ哲学、ヨガ、ヴェーダーンタの知識まで、すべてを包括し聖書としても扱われる。

 

ヨーガ・スートラ

作者:パタンジャリ(編纂者)

年代:A.D.200〜400年ごろ

構成:第1章「サマーディ(三昧)、第2章「サーダナー(修養法)」第3章「ヴィヴーティー(超人的力)」、第4章「カイヴァルャ(解脱)」という全4章、196のスートラ(経文)により構成されている。

特色:最終的な悟り「カイヴァルャ」とは、真我を自己として生きる境地を目指すこと。つまり、真我を覆い隠す心は純粋(サットヴァ)になり、自己は真我にとどまり、心と真我が区別される。そして、瞑想後もサマーディ(真我体験)は維持され続ける。第1章の前半は仏教との共通点が多く見られ、後半の一部は仏教の影響で確立したとも言われる。

 

ハタ・ヨーガ・プラディーピカー

作者:スヴァートマラーマ

年代:A.D.1500〜1600年ごろに成立

構成:第1章「アーサナ」、第2章「プラーナーヤーマ」、第3章「ムドラー」、第4章「ラージャ・ヨーガ」の全4章、388の詩句から構成されている。ハタヨガの哲学と、その実践にためのマニュアル書。

特色:各種行法で肉体を浄化するが、主な目的はサマーディへの道。ハタヨガはラージャヨガのためにあり、ラージャヨガを知らず、ハタヨガのいを行ずる人は、努力のこうかを逃した人とも説く。初期のナータ派は、ヤマなどの社会性も強調した。

 

出典:『Yogini』Vol.76

教えてくれた人

ヴェーダプラカーシャ・トウドウ

「ヴェーダセンター」主宰。ヨーガ瞑想教師。インド哲学・アーユルヴェーダ講師、インド政府公認プロフェッショナルヨーガ・インストラクター(AYUSH省QCI認定)。ヴェーダ詠唱家。インド祭祀(冠婚葬祭)祭司。4000人以上に瞑想を指導。