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【呼吸②】呼吸が深くなる、それはヨガが深くなること。

ヨガは呼吸を見つけた

ヨガとストレッチの違いは? と聞かれると、大きな理由の一つに「呼吸を意識して動くこと」と答える人が多いのではないだろうか。そう、ヨガはそのメソッドで呼吸を大事にすることで、大きな成果を上げている。

そもそもなぜヨガに呼吸が必要なのか。それは「心の働きを穏やかにするため」

「『ヨーガスートラ』1章の2番目に、ヨガとは何かが書かれていて、その後に人生をよくするためにはこうしようねなどが書かれています。呼吸に必ず自分の意識を戻していくことによって、呼吸が乱れているな、気持ちも乱れてるなということがわかる。本来ヨガをする目的とは、心を落ち着かせること。穏やかな心で呼吸している状態を見ていこうという目的があるからです」

「ヨガでは、一生の中で呼吸の数が限られていて、限られている呼吸をどう使うのか、自分の生活にどう役立たせるのかなど、自分の人生を真剣に考ながら生きようという考え方があります。そのために呼吸を自分でコントロールする。一日の中の呼吸の仕方は自分の人生に影響します。悩めることや緊張することがあると呼吸が短くなってしまうし、ゆったりと呼吸すれば寿命は長くなるかもしれない。だから呼吸を大切にしようということになるのです」

どう呼吸をするかが、どうヨガをするか。そして【ヨガをする=どう生きるか】です」

とケンハラクマ先生は語る。呼吸は意識をした途端、今までの何げなくしていた自然呼吸とまったく違うものになっていく。例えば集中力が増し、瞑想状態へ導く、活動のパフォーマンスが上がる、眠りが深くなる、人との関係がよくなるなど、生命活動の維持以上のさまざまな効能を引き出してくれる、あるいは別の次元への導線となってくれるのだ。

呼吸法という技術

ヨガは呼吸によって「プラーナ」を心身に取り込むとする哲学を持っている。ではプラーナとは? プラーナとはすべての現象のもとになっているエネルギーのこと。私自身の体も心も、言葉も、また別の生命も、自然も気候なども、ありとあらゆることがプラ−ナであり、その形を変えてこの世に存在している。しかしバランスが崩れると、例えば生物ではプラ−ナが巡りにくくなったところに病気が起こったりしてしまう。私達の体も心も、プラーナが適度に巡っている状態が望ましいが、日々の生活を送る中でそのバランスが崩れてしまったりするのだ。

ヨガのポーズが多いのはそのプラーナを巡らせるために、たくさん考えられているからだ。普段はしないような姿勢を行うことで、巡りが滞っているところへプラーナを送らせる。

ヨガのポーズを意識的な呼吸と一緒に行うのは、まさにプラーナをよりよく循環させるためで、呼吸はプラーナをのせて体のすみずみまで流れていくことができるからだ。そして、体の通気がよくなったら、今度はさまざまな種類の呼吸法を通して、プラーナをさらに巡らせていく。ヨガはその呼吸法をいくつも用意しているというわけだ。

 

パフォーマンスを上げる呼吸の集中のすごさ

トップアスリートらも注目する呼吸のパワー。ここでは集中力と呼吸の関係にフォーカスする。なぜ呼吸を制することがパフォーマンスアップにつながるのだろう?

私達が思考する時に使う大脳。頭が忙しい時というのは、中枢神経と大脳との間で激しく情報がやり取りが行われている。そんな状態で集中は難しい。中枢神経とのやり取りが抑えられ、脳が沈静化した時、脳は集中へ適したコンディションへと変遷する。

この中枢神経、体の機能の大元で大脳や小脳に指令を与えるが、基本的にはバックアップ機能。自律神経を含む末梢神経が、心身の変化に対応できなくなった時に出動する。ということは、末梢神経が十分に機能していれば中枢神経は休息モード。ここに意識的にアプローチできる、唯一の手段が呼吸。呼吸で自律神経の調整能力を上げ、中枢神経の働きを抑えることで集中への扉を開く

【体に軸を作る】

体軸とは頭頂から体の中心を上下に貫く、見えない線。解剖学では「正中線」ともいう。体幹は胴体を範囲とするが、体軸は体幹に加えて足までつながるライン。上体と脚を連動して使うヨガの「木のポーズ」は、体軸を実感しやすいだろう。体軸は姿勢を安定させ、姿勢の安定は動ける体を作る。体軸を作るには、「体軸筋群」に刺激を与え、連結して働くように整えること。体軸筋群は、脚の筋肉を除くと横隔膜や腹横筋など呼吸で使う筋肉とオーバーラップする。正しい呼吸は体軸を作り、体軸が生まれるともっと呼吸が深まる好循環が始まる。

【ブレない精神力を持つ】

体のブレは心のブレにつながる。別々に考えがちな体と心はそもそも地続きで一体だ。五分五分の実力を持つトップアスリートの勝敗を決定づけるのは、メンタルの強さ。そのメンタルも呼吸で鍛えることができる。試合や本番の環境というのは緊張や不安が起こりやすく、交感神経が優位になる。交感神経が暴走すると、バックアップ機能の中枢神経が調整に入るが、副作用としてさらに筋肉の緊張を高めてしまう。負のスパイラルに陥らないためにはリラックスを促す副交感神経の働きを高めること。そう、自律神経の調整スイッチは、呼吸だ。

【筋肉の最大出力を引き出す】

呼吸を鍛えると、強度の高い運動にも耐えられる体を手に入れられる。指標となる数値がVO₂MAX(酸素最大摂取量)。1分間に酸素を活用できる量を指す。この数値が高くなるにつれて、自分の中に眠るパワーを引き出せるようになり、回復力が早くなる。体内でエネルギーを作る時に必要な酸素の取り込みや利用が効率的に行われるためだ。持久力が向上し、ランニングのタイムが上がる。脂肪をエネルギーとして燃焼しやすくもなる。横隔膜の動きと肋骨の内旋を意識しながら行う「キャット&カウ」は、有効な呼吸トレーニグの一つ。

【体力の浪費を防ぐ】

呼吸が整うと姿勢もよくなる。ただし、いい姿勢とは、余分な筋肉に負荷をかけず、疲れない姿勢のこと。背骨とつながり支える役割を担っているのがインナーマッスル。この腹横筋や腰方形筋、内腹斜筋がうまく機能していないと、本来は使わないアウターマッスル(腹直筋などの体表部の筋肉)で補い、背骨を支えることになる。パワーの大きな筋肉を稼働させると疲れやすく、慢性化すると肩コリや腰痛にもつながる。無理なく最小限にインナーマッスルを使うカギが呼吸。意識的に呼吸を整えると、これらの筋肉が協調して働き背骨は安定する。

【リラックスした集中状態】

呼吸に意識を向けることで内観力が高まり、心身の状態をより繊細なレベルで捉えやすくなる。ヨガを繰り返し行うと体得する感覚だ。安定した呼吸への意識は、副交感神経を優位にしリラックスを促す。心身は緊張や興奮から解放されるため、集中しやすい環境が生まれるという仕組み。そもそも呼吸へ意識を向けることは、過去や未来の心配から離れ、今に集中をする行為でもある。またリラックスした状態の脳内はアルファ波が増加するが、これが”静かな”集中状態を作る。武道や茶道でも経験するリラックスと覚醒の共存の状態だ。

【正しい呼吸で実現する10のメリット】

□運動パフォーマンスが上がる

□快復力が上がる

□首コリ、肩コリの解消

□姿勢がよくなる

□柔軟性が上がる

□持久力がつく

□痩せやすい体

□消化器(胃や腸)の活性化

□質のいい睡眠

□不安感の解消

さまざまな呼吸法

ここでは呼吸法をいくつか紹介しよう。ヨガスタジオでここまでの呼吸法をすることは今ほとんどないが、それぞれに効能があるため、使い分けられると、ヨガがさらに深まっていく。

【腹式呼吸】

寝ている時には、誰もが深い腹式呼吸になっている。つまり吸ってお腹を膨らませて、吐いてへこませている。これをもう少し深めて説明すると、ゆっくり深く吸うと肋骨を大きく動かさずに肺が大きく広がり、それに押されて横隔膜が下がり、横隔膜に押されてお腹が膨らむという仕組み。練習ではお腹を意識して息を吸い込んで肺を満たし、お腹を引き締めるように息を吐く。これによって、横隔膜が引き下げられて内臓を刺激できる。

【胸式呼吸】

肋骨を動かすことで肺を圧迫し、空気の出し入れをする呼吸法。体が肋骨を引き上げようとして、自然と胸を張って姿勢がよくなるという特徴がある。肩甲骨のまわりをかためず、肩に力が入らないようにするのがポイントだ。肩に力が入ってしまうと、腰に負担をかけることになる。胸の筋肉がストレッチされ、心身ともにスッキリとする効果も。

【完全呼吸】

お腹から胸、肩、ノドまでを意識して、肺の下部、中部、上部すべてを使って行う呼吸法。腹式呼吸、胸式呼吸、肩式呼吸を順に行っていく。さらに肋骨の一番下あたりを意識し、そこを膨らませるようなつもりで息を吸い、ゆっくりと吐く。肋骨が広がって横隔膜がほぐされ、横隔膜が上下することで内臓がマッサージされる。

【ハタ呼吸/ナーディショーダナ】

「ハ」とは「太陽」、「タ」は「月」。左右の鼻の穴、片方ずつで呼吸をすることで、体内の陰陽のバランスを整える。右手の親指で右の小鼻(鼻腔)を押さえ、人さし指と中指は軽く眉間(第三の目)を押さえ、右ヒジを左手で支える。左の鼻から吸った後、薬指と小指を左の小鼻(鼻腔)に当てて、親指を離して右の鼻から息を吐き出す。続いて右の鼻から吸い、右を閉じたら、左から吐く。これで1サイクルとなる。ナーディと呼ばれるプラーナの経路を浄化する呼吸法で、片鼻呼吸法とも呼ばれる。リラクゼーション効果が高い。

【ウジャイー】

「ウジャイー」とは「力の支配」を意味する。胸式呼吸の一つで、呼吸でプラーナ(エネルギー)の流れをコントロールする。息を吸う時も吐く時もお腹をへこませ、口は閉じたまま舌先をまいて、腹圧を高めて呼吸を行う。入った空気を気管で温めて、体内の至るところへ空気を送り込むことがわかるだろう。内臓系の器官の活性化にもつながる。

【カパーラバティ】

「カパーラバティ」とは「光る頭蓋骨」という意味。背筋を伸ばして座り、お腹に力を入れて、瞬間的に引き締め、鼻から息を吐く。その反動で自然と息を吸って、規則的なペースで繰り返していく。1分間に120回ほど行えるようになるのが理想。肺や頭の中の空気が換気されてスッキリする効果がある。ただし危険性があるので、指導者に学ぶことをオススメ。

【火の呼吸】

1分間に200回という驚異のスピードで、連続して呼吸する。お腹が素早く前後して体はどんどん熱を帯びていく。カパーラバティやバストリカと異なり、1回の筋収縮が終わる前に次の収縮が始まり、筋収縮が連続して融合した強縮を引き起こす。呼吸筋の持久力が向上し、鋸奥部の骨や軟骨の強化が期待できる。高いパフォーマンスを引き出すので、格闘家やアスリートが学ぶことも多い。

【バストリカ】

鍛冶屋が鉄を鍛えるため火を起こすのに使う「ふいご」のような、息の出し入れを行うので、ふいご(バストリカ)の呼吸と名づけられた。内臓の働きを活性化する。鼻から素早く「フンッ!」とならしながらお腹を引っ込めて息を吐き、お腹をふくらませながら素早く吸い込む呼吸法。これを早いテンポで数回繰り返し、その後にゆっくりと呼吸する。

【シータリー】

「熱を冷ます」という意味の「シータリー」。息をすべて吐き出したら、舌を筒状に丸めて先端を口から出し、「シー」と音を立てながら舌の間から息を吸い込む。吸いきったら舌を引っ込めて鼻から吐き出す。舌の間を通る時に空気は冷やされることで、眠気を取り、体内をリフレッシュさせてくれる。

【シートカリー】

シートカリーは上下の歯を合わせて唇を開き、歯の隙間から息を吸い込む方法。吸い込んだ後は鼻から吐き出す。やはり冷たい空気を取り込めるので、シータリーとど同様に夏の季節を乗り込めるために、この呼吸法を丸めるのもいい。舌を丸めるのは身体的に難しい人は、こちらをオススメ。

【ブラーマリー】

蜂音の呼吸法。耳をふさぎハミングすることで脳内に音を響かせる。その音に集中することで考えが止まり、頭の中がすっきりしていく。頭を使いすぎてしまった時などに便利で、一つの瞑想法でもある。

 

呼吸を意識するヨガ。ヨガをヨガたらしめる呼吸の使い方をきちんと知り、正しく用いることはヨガを深め、人生の質を上げることにもつながる。ケガをしてしまった時や、年を取り思うようなポーズがとれなくなった場合でも、呼吸があればヨガ、と言える。呼吸を意識するということにもう少し深く向き合うのはヨガをする上でも、よりよい人生を送るためにも必要なのではないだろうか

 

ケンハラクマ先生から学ぶ呼吸法指導者養成講座−108の気づきの言葉/認定証つきー