編集長エッセイ「ヨガとボクと」  第二回【阿佐ヶ谷のアパートと宇宙】

JR阿佐ヶ谷駅から西武線の鷺宮駅の方に向かって徒歩20分のところにボクの住むアパートはあった。3F建のビルの3Fの角部屋。1Fはオーナーの会社が入り、2−3Fが賃貸。1フロアに2部屋だけでビルの真ん中に階段があり、その左右に一部屋ずつあり、合計4部屋。家賃7万円で共益費は5000円だった。決して新しくはないが、2DKで45平米ぐらいあり、広さは申し分なかった。決め手は、昇ってくる朝陽を拝め、富士山が小さく見え、少し遠くに新宿のビル街のカオス、3Fなのに周囲の家よりも高く、東京の西にひろがる人々の家の屋根が見える場所。さらにはキッチンからは夕陽が見えて、一年中昼過ぎまでは部屋に自然光が入る。ヨーロッパにいた時に、朝陽によって1日の訪れに喜びやる気に満ち、沈む夕陽を見ながら今日のできごとに感謝したり、反省したり、少し静かになる。そして星空を見て、自分の内側に入り、癒す。そういう日々を送ることで、どんなに忙しい日々が訪れようと、人間らしさをきちんと保てるだろうと確信していたから。

明日は2回目の荻窪ヨガだ。初めてのヨガ体験では、右も左もわからず、本当にびっくりすることが多かったし、流れを理解していなかったから、あまり集中できなかった。後にわかったのだが、これはポーズの流れが決まっているアシュタンガヨガ特有のもの。その点を踏まえて、前回クラスの後、アシュタンガヨガを調べ、DVDと本を購入し、これで復讐と予習しようと。「Ashtanga yoga 」という本を最初に手にしたと思う。そこに登場していたのがJhon Scottという英国人のイケメンヨギ。そして彼がポーズモデルとしても登場するアシュタンガヨガのDVD。買ってから、仕事が忙しくて、ヨガ前日の深夜に初めて観ることになった。


このDVDの映像はそれまでの人生で見た何よりも衝撃的だったかもしれない。近年Netflixで大人気作となったボクの好きな山田孝之さんが主演の「全裸監督」の世界に登場するようなビデオを初めて見た時よりもだ。
まずは呼吸。クラスに参加している時に、みんなが行っている特殊な呼吸法を細かく確認することはできなかった。なんだこの呼吸音は。。。スースー言っていて、「キン肉マン」のウォーズマンみたい。でもなんかすごい。そしてポーズと呼吸の連動に驚き、さらには超絶スローのジャンプバックとジャンプスルー。思わずビデオがスローになってしまったのではとカウントを確認したぐらい。人間が時の流れをコントロールしているように見えたのだ。そのDVDを観て興奮してしまい、眠れなくなった。4時過ぎまで眠れずに、寝不足のまま荻窪のヨガスタジオ「インターナショナルヨガセンターIYC」に向かった。

2回目となるこの日は、8時ぐらいからスタートからの「呼吸と瞑想」のクラスを90分。その次の10時からの「アシュタンガヨガ・ベーシック」を受けた。当時ヨガのことは何も知らなかったが、ヨガは呼吸が大切ということぐらいはなんとなく知っていたし、瞑想というとてつもなく深くて、神秘的なゾーンにはとてもとても興味があったから、このクラスを受けることは楽しみだった。

そもそもだが、ボクは小さな頃から神秘体験や霊的な体験が多く、高校生ぐらいまで万物と会話していた。日本では悪さをしない幽霊も見てきたし、海外では数度ゴースト体験もある。スピリチュアルという言葉が受け入れられる前からずっとそういう世界に興味はあった。自分という人間が、今持つ力は、まだ未開発であり、まだ知らない方法や知識や体験や出会いにより、覚醒し、本当の力を発揮すると。そう思っていたから、目には見えないものの力をずっと信じていたし、そういうものがあると確信する体験をしてきた。

当時、その阿佐ヶ谷のアパートの部屋の真ん中に木の柱があり、毎朝その柱の前に立ち、地球の真ん中と宇宙のある点を結び、そしてその真ん中に自分を置き、体の中のいくつかのポイントを整えていた。具体的には、目を閉じて、呼吸し、お腹の下の丹田部、胸の真ん中、そして眉間と、頭頂部を地球と宇宙の点を結んだ軸の真ん中に置く。正確には置こうとする。するとずれているのがわかるから、意識の中で整える。今思えば、どうしてこれをしていたのかなんて一度も考えたことがなかったのでわからなかいが、これはボクの宇宙との更新であり、調整法であり、自分にとってのヨガだったのだろう。

今思えば、ボクとヨガとの出会いは、偶然ではなかった気がする。

 

文=橋村伸也(はしむらのぶや)


Profile

雑誌編集者、文化編集者。『The yogis magazine』編集長。株式会社Lotus8代表取締役。英国留学後、世界40カ国以上を旅し、帰国後に出版の道へ。2004年、日本初のヨガ専門誌『Yogini』を創刊企画し、編集長として媒体を牽引(2022年休刊)。その後、『The yogis magazine』を自社で創刊し、現在に至る。ヨガ、フィットネス、禅、スピリチュアル、自然療法を軸に、雑誌・ウェブの編集をはじめ、スタジオ運営、アパレル、商品開発、イベント、企業のブランディングやコンサルティングまで幅広く手がける。NHK『グッと!スポーツ』ヨガ企画の構成にも携わり、自身も出演。個人としての写真や文章を通して独自の視点を発信予定中。Instagram:@nobuya_hashimura