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古典ではどう言われている? 見えない体の解剖図

ヨガを語る上で欠かせないナーディーやチャクラ、プラーナ。それらは目には見えない概念で、理解するのが難しいと思われたり、苦手意識を持たれがち。

 

今回は、ヨガの古典で言われていることをヒントにそれらの私達の見えない体の概念をひも解いていく。

 

肉体レベルでない微細身で起きていること

 

呼吸はプラーナ(生命エネルギー)の乗り物。そう聞いたことがある人も多いはず。呼吸に“乗って”、プラーナはどこへ、どう運ばれていくのか。肉体レベルにはとどまらないその動きを、ヨーガの古典に書かれていることからひも解いていく。

 

人は、いわゆる肉体を指す「粗大身(ストゥーラシャリーラ)」と、目には見えないエネルギー体である「微細身(スークシマシャリーラ)」から成る。

 

粗大身に属するのは、動脈、静脈、毛細血管や各種器官、臓器、神経など。対して微細身には、プラーナが通る概念的な経路や微細な管である「ナーディー」が該当する。全身に張り巡らされたナーディーは、プラーナのエネルギーセンターであるチャクラを結び、プラーナを体中に運んでいる。

 

ハタ・ヨーガ創始者のゴーラクシャによる教典『ゴーラクシャ・シャタカ』では、ナーディーは全部で7万2000本あり、主要なものが10本、そのうち3本(スシュムナー・イダー・ピンガラー)が特に重要なもの。“すべてのナーディーは、生殖器とヘソの間にある鳥の卵のような形をした『カンダ』という場所から始まる”としている。

 

サマーディ到達にはまずは経路の浄化から

 

ナーディーの起源(カンダ)には諸説があり、『ハタ・ヨーガ・プディーピカー』では肛門から12指上と表現され、同じ位置でも説明の仕方が異なっている。また、ナーディーの数では同じハタ・ヨーガ系の教典『シヴァ・サムヒター』では、35万本とされている。

 

教典によって内容に違いはあるが、共通して重要なのは、ナーディーに詰まりがなくプラーナが不断に全身に行き渡る状態にすること。目には見えないナーディーに対しアプローチするには、やはり粗大身(肉体)を通じて働きかけることだ。

 

まずはプラーナの経路を浄化して詰まりをなくし、次にアーサナで背骨の伸びた正しい姿勢を取れるよう練習し、プラーナが巡る環境を作る。

 

ヒンドゥー教伝統のタントラでは浄化を重視し、水や呼吸、筋運動で鼻や気道、胃腸を浄化する方法を説いている。こうした浄化法で、いい呼吸とプラーナの活性化を実践し、最終的には根源的なエネルギーであるクンダリニーの目覚めをもたらすとされる。

 

クンダリニーが覚醒し、詰まりのないスシュムナーを通って頭頂部のサハスラーラチャクラまで上昇すると、“自分”が消え、心は宇宙意識と結びつき融合する。それがハタ・ヨーガで言う「サマーディ」、悟りの状態となるのだ。

 

呼吸をスムーズにする浄化法

 

いい呼吸のためには、呼吸法を実践する前に浄化法によって副鼻腔や気管支などの気道経路をきれいにしておく必要がある。特に鼻が詰まりやすい人などは、事前に浄化法を行うと呼吸の効果が高まる。ここでは代表的な浄化法を紹介する。いずれも指導者から正しい方法を一度教わってから練習しよう。

 

【ジャラネーティー】

鼻洗浄、鼻うがいなどと呼ばれる浄化法。小さな急須やポットのような容器(ネーティーポット)に、人肌温度の生理食塩水程度の薄さの塩水を作る。その水を右の鼻から左の鼻へゆっくりと流し、その逆も行う。たまった粘液が排出され鼻腔がスッキリ。

 

【ナーディーショーダナ】

片鼻ずつ行う、呼吸を利用した浄化法。蓮華座など背筋を伸ばし安定した姿勢で、口は軽く閉じ、右手の人さし指と中指を曲げた手の形を作る。右手の親指で右鼻を押さえ、左鼻から息を吸う。今度は左鼻を薬指で押さえ、右鼻から息を吐く。この交互の呼吸を繰り返す。

 

ナーディーとチャクラの関係性とは

歴史的に初めてチャクラについて記述されたのは、紀元前1000年ごろの『アタルヴァ・ヴェーダ』。その中で、人間には八つのチャクラと九つの門(鼻、口、耳など)があると書かれている。

 

ウパニシャド聖典群ではナーディーの概念が多く説かれ、紀元後世紀ごろには、タントラとヨーガが結合しハタ・ヨーガとして体系化された。それが前述の『ゴーラクシャ・シャタカ』だ。

 

チャクラは、脊椎系にあるプラーナの渦。チャクラは、意識の座でありエネルギーの中心。例えれば変電所、主要ナーディーは高圧線、他のナーディーは各家庭へ電気を供給する配線だ。チャクラはプラーナを制御し、全身にエネルギーを供給し、もちろん呼吸とも密接に関係している。

 

例えば「バンダ」は、呼吸を一時的に止め、特定の筋肉を収縮させてプラーナをロックし、また呼吸することでプラーナの流れに刺激を与えるものだが、腹部を引き上げ締めつける「ウッディーヤナバンダ」はマニプーラチャクラを意識するものだし、ノドを引き締める「ジャーランダラバンダ」ではヴィシュッダチャクラを意識する。

 

チャクラは、肉体と精神的な世界が相互に融合、浸透し合う点。ナーディーを浄化し、チャクラを物理的、心理的に刺激することは、クンダリニーの覚醒に欠かせないと言える。

 

目に見えない世界を知ればヨガがもっと楽しく

 

チャクラやプラーナ、ナーディーは目に見えないから怪しい…なんて印象を持っている人もいるかもしれない。

 

しかし、知れば知るほど目に見えない世界は奥深くおもしろい。それらの概念をイメージしながらアーサナを取れば、アーサナの質や体の変化も体感できるだろう。食わず嫌いせずにまずは学びを深めてみよう。

 

監修=ヴェーダプラカーシャ・トウドウ

ヴェーダセンター代表。瞑想・ヨーガ指導歴38年。ヨーガ瞑想教師、インド哲学・アーユルヴェーダ講師、インド政府公認プロフェッショナルヨーガ検定試験官。これまで4000人以上に瞑想を指導。

 

イラスト=macco 文=Yogini編集部