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ヨガの源流四大聖典・教典読み比べ近べ

約四千年前から脈々と受け継がれてきたヨーガの世界。インドの歴史とヨーギー達がたどった変化の過程を、偉大な聖典を読み比べながらひも解いていこう。

 

読み比べて見える人間の知性の変化

 

ヨガの歴史をさかのぼると、インダス文明の遺跡から、ヨーガ行者像を描いたとされる石印が発見されている。そして、“ヨーガ”という言葉が文字で記されたのは、インダス文明終焉後のヴェーダの時代からだ。

 

インド最古の聖典群『ヴェーダ聖典』では、ヨーガは幸福の獲得や自然の力への精神統一を意味し、その内容は、自然を神性なものとして讃える詩句の集めたもの。そして、それをカースト制の頂点に位置するバラモン祭官が祭事で使用したのだ。

 

深い瞑想の中で、自然を支配する神性な存在と結びつくことで、ヴェーダや祭事学やウパニシャドが誕生し、そのコンセプトを伝える神話も作られ、さらに生命の真理を探求する、六大哲学体系も誕生。

 

聖典や哲学書を読み比べることで、人間の意識状態が体系化される経緯や、知性の角度の違いを知ることができる。今回は、ヨガ哲学を学ぶ上で欠かせない四つの聖典の特徴について一つひとつ見ていこう。

『ヴェーダ聖典』

 

【和訳】

veda「知識、聖典」

 

【作者】

ヴャーサ(編纂者)

 

【年代】

BC.1100年ごろ~AD.200年ごろ成立

 

【構成】

四大ヴェーダ聖典は『リグ・ヴェーダ』、『サーマ・ヴェーダ』、『ヤジュル・ヴェーダ』、『アタルヴァ・ヴェーダ』。ヴェーダは、本集、梵書(祭儀書)、森林書、奥義書の四部門からなる聖典群の総称。

 

【概要】

インダス文明終焉後、インドに侵入したアーリア人が編纂したインド最古の聖典群。自然を神格として賛美し、祭儀で祈りを捧げることで、健康、幸福、繁栄などを願った。

 

四ヴェーダ本集(サムヒター)19103の聖句は、神々の賛歌、祭詞、呪文などだ。ヴェーダの末期を飾るウパニシャド(奥義書)では、生命とは何かを考察したことで、儀式に重きを置いていた祭式主義から、知性・理性の働きを重視する主知主義へ。師と弟子の対話形式が多く用いられ、宇宙の真理や生命哲学、ヨーガの実践を説いたものもある。

 

【特色】

本集はヴャーサが編纂したとされるが、一つひとつの聖句自体は、霊感を得た太古のルシと呼ばれる聖者達が、天から聞き授かったものと言われ、それらの書を「天啓聖典(シルティ)」と呼ぶ。ヴェーダは現代のインド文化の基層となる思想で、宗教、哲学、医学(アーユルヴェーダ)、音楽、文学、ヨーガなどあらゆる知識の源になっている。

 

 

『バガヴァドギーター』

 

【和訳】

bhagavad「神」

gītā「詩、歌」

 

【作者】

ヴャーサ(とされる)

 

【年代】

BC.150年ごろ原形成立~AD.100年ごろ現在の形に

 

【構成】

古代インドの叙事詩『マハー・バーラタ』の一部で、第6章に収められている、全18章700の詩編。戦場を舞台にした、主クルシナとアルジュナの問答形式の物語。「イティハーサ」と呼ばれる伝承聖典の一つ。

 

【概要】

宇宙を維持する根本原理はヴィシヌと呼ばれ、真我として、私達の心の根本に存在している。その根本原理にクルシナという人格を持たせ、戦車の御者として戦士アルジュナに教えを説く。戦場で親族などとの戦いに悲嘆し、戦いを放棄したアルジュナは、クルシナの導きにより、行為のヨーガ、知識のヨーガ、瞑想のヨーガ、献身のヨーガなどを実践することで真我を獲得。

 

ダルマ(自然法)に添った行為で、宇宙や生命の根本原理や真理に目覚め、真我と合一して悟りを得るという物語。

 

【特色】

無知を取り除き、真理を悟るための知識を説いた、最終解脱へ導く指南書。アートマン(真我)と結びつき、いっさいの存在はブラフマン(根本原理)の表れと悟ることが目的だ。ヴェーダの教えを具体的にするため、神との問答形式になった。ウパニシャド、サーンキャ哲学、ヨーガ、ヴェーダーンタの知識まで、すべてを包括し、聖書としても扱われる

 

 

『ヨーガスートラ』

 

【和訳】

yoga「合一」

sūtra「教典、糸、格言」

 

【作者】

パタンジャリ(編纂者)

 

【年代】

AD.200年~400年

 

【構成】

第1章「サマーディ(三昧)」、第2章「サーダナー(修養法)」、第3章「ヴィブーティ(超人的力)」、第4章「カイヴァルャ(解脱)」という、全4章、196のスートラ(経文)から構成されている。

 

【概要】

冒頭で「心の働きを止滅する」というヨーガの定義を説いた、ヨーガ学派の哲学書。古典ヨーガ(=ラージャ・ヨーガ)ともいう。サーンキャ哲学を背景に、瞑想などの精神的実践でサマーディを体験し、その先の目指す境地、カイヴァルャ(解脱)に至るプロセスを説く。

 

また、道徳律、アーサナ、呼吸法などの八支足(八つの部門/アシターンガ)の知識も含む。「スートラ」の原意は「糸」であり、糸を紡ぎひもにするが、短文の教説をまとめたものなのでスートラと呼んだともいわれる。

 

【特色】

最終的な悟り「カイヴァルャ」とは、真我を自己として生きる境地を目指すこと。つまり、真我を覆い隠す心は純粋(サットヴァ)になり、自己は真我にとどまり、心と真我が区別される。そして、瞑想後もサマーディ(真我体験)は維持され続けるのだ。第1章の前半は仏教との共通点が多く見られ、後半の一部は仏教の影響で確立したとも言われる。

 

 

『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』

 

【和訳】

hatha「力」

yoga「合一」

pradīpikā「光」

 

【作者】

スヴァートマ・ラーマ

 

【年代】

AD.1500~1600ごろに成立

 

【構成】

第1章「アーサナ」、第2章「プラーナーヤーマ」、第3章「ムドラー」、第4章「ラージャ・ヨーガ」の全4章、388の詩句から構成されている。ハタ・ヨーガの哲学と、その実践のためのマニュアル書。

 

【概要】

シヴァ神を至高の存在とし、ゴーラクシャ(AD.1000または1100ころ)から知恵を授かった、ヨーガ行者スヴァートマ・ラーマの教え。ハタ・ヨーガを実践するための解説や行法が記されている。

 

また、脊椎基底部にある生命エネルギーの源“クンダリーニ”や、生命エネルギーセンターである“チャクラ”の開発についても説き、最終章(第4章)では、ラージャ・ヨーガの重要性にも触れながら、真我との合一、至高の存在との融合などをハタ・ヨーガのゴールとした。

 

【特色】

各種行法で肉体を浄化するが、主な目的はサマーディへの道。ハタ・ヨーガはラージャ・ヨーガのためにあり、ラージャ・ヨーガを知らず、ハタ・ヨーガのみを行ずる人は、努力の効果を逃がした人とも説く。

 

※サンスクリット語の日本語表記は先生の言い方に準じています

 

教えてくれた人=ヴェーダプラカーシャ・トウドウ

『ヴェーダセンター』主宰。ヨーガ瞑想教師。インド哲学・アーユルヴェーダ講師。インド政府公認プロフェッショナルヨーガ・インストラクター(AYUSH省QCI認定)、ヴェーダ詠唱家。インド祭祀(冠婚葬祭)祭司。4000人以上に瞑想を指導。

 

文=Yogini編集部