検索

シヴァ ヨガと相互に影響を与え合ったヒンドゥー教における神

宗教ではないのに、なぜヨガとシヴァには関係があるのか。シヴァの伝承とのかかわりを知れば、自然と理解も深まる。

【歴史をたどっていくとシヴァが影響を与えたのは明らか】

ヨガの起源には諸説あるが、今から4000年以上前、紀元前2500年〜1800年のインダス文明までさかのぼるという説がある。インダス文明を代表する遺跡の一つ「モヘンジョ・ダーロ」で、ヨガの坐法らしき石の印章が発見されているからだ。一方、古代のヒンドゥー教とも言われるバラモン教の形成は紀元前1300年ごろで、ヒンドゥー教の成立は紀元前2世紀〜紀元後3世紀ごろとされている。

時系列で見ると、ヨガは最も古いのだ。そして、紀元後 3 世紀ごろ、ヒンドゥー教は一般的な宗教として広く信仰を集めるようになった。また、紀元前200〜紀元後400年ごろには、ヨガの教典である『ヨーガ・スートラ』も編纂されている。つまり、同じ時代にヒンドゥー教の教えとヨガの哲学大系が成立したということ。

タントラ・ヨーガが確立した紀元前5世紀〜紀元後3世紀ごろも、ハタ・ヨガが成立した10〜11世紀も、ヒンドゥー教は人々から信仰され続け、最高神の一柱であるシヴァの概念が影響を与えたのは必然と言えるだろう。

【踊りも得意なシヴァがアーサナを考えた! ?】

シヴァは、宇宙を再創造するための「破壊」をつかさどる神として知られている。しかし、 他にもさまざまな側面を持っており、名前や姿を変えた異相として信仰の対象となってい る。その種類は数えきれないが、比較的よく知られているのは「踊りの神」、「舞踏神」と称される「ナタラージャ」。ナタラージャは、アーサナにつながる振付(ポーズ)を108種考えたとされている。

美術品や崇拝対象として残っているナタラージャ像には、4本の腕を持ち、炎の円環の中で、右上手で鼓を持ち、左上手に炎をのせ、人を踏みながら片脚を上げ、残り2本の手でポーズを決めるという形が多い。宇宙の「破壊」と「再生」の表現とも解釈され、個々のアーサナの由来や意味を知るヒントにもなりそうだ。

【そもそも“シヴァ”って何?】

ヒンドゥー教における三大神の一柱の名前。ヒンドゥー教はヨガと同じくインド発祥であり、ヨガの歴史においてもその関係が深いとされている。特にシヴァは、「ヨガを創始した神」、「最初のヨギー」と言われ、ヨガの世界観や理解を深める上で欠かせない存在となっている。

実は、日本の寺でく見かける「大黒天」は、シヴァを仏教に取り入れた際の異名。出雲大社などで祀られている神道の神「大国主神(おおくにぬしのかみ)」は、本来のルーツが異なるものの、同じ「だいこく」と音読みできることから、神仏習合の流れで大黒天やシヴァと同一視されるケースもある。

【名前や役割を変えたシヴァ】

ナタラージャ…踊りの神、舞踏神

イーシュヴァラ…自在天、主宰神、最高神

マヘーシュヴァラ…大自在天

マハーデーヴァ…偉大な神

マハーカーラ…大黒天(時間の神)

パシュパティ…動物の主、家畜の主

バイラヴァ…恐ろしいもの

サルヴェーシャ…普遍的な神

ガンガーダラ…ガンジス川を支えるもの

シャンカラ…恩恵を与えるもの

【目覚めたクンダリニーがシヴァと再結合を果たすとは?】

ハタ・ヨガでは、純粋意識をシヴァ、根源的生命力(シャクティ)をパールバティーとして神格化している。両神は一体神「アルダナレーシヴァリー」とも呼ばれる。そして、シヴァは頭頂部の第7チャクラ「サハスラーラ」に、3 回とぐろを巻いた眠る蛇のクンダリニー(環状のもの)として描かれるシャクティは、第1チャクラに存在する、とされる。

ヨガや瞑想を続けると、眠る蛇たるクンダリニーが目覚め、シャクティは通り道である「スシュムナー・ナーディー」を上昇。第7チャクラに達してシヴァと再結合すると、人は最終解脱を得るとさえる。3回巻かれた蛇は三つのグナ、 眠る蛇はタマス、再結合はサマーディであり、真我への回帰と解釈できる。

【シヴァを讃えるマントラを通して心を整えていく】

レッスンの前後に、「オーム」、「シャーンティ・マントラ」、「祈り」が唱えられることがある。オームは瞑想の対象とすることが多く、瞑想を深めるのにいい。シャーンティ・マントラは自分の悟りと世界に向けた平和の祈り、祈りはグルへの感謝を表すものだ。マントラや祈りは種類が豊富で、特定の自然神やグルに向けた言葉となっている。

シヴァを讃えるマントラ にもバリエーションがある。マントラの響きに心地よさを感じられたら、サンスクリット語(梵語)の意味を調べてみよう。シヴァをはじめとするヒンドゥー教の神々とヨガの関係、瞑想やアーサナが目指す境地や、言葉では説明しにくい概念が含まれていることに気がつくことがある。

【知っておきたいシヴァの家族と仲間達】

ヒンドゥー教は多神教であり、シヴァ以外にも数多くの神がいる。シヴァと並ぶ最高神は、ブラフマーとヴィシュヌ(三大神=トリムールティと呼ぶ)。しかも、彼らにはそれぞれ妻がいて、神話では個性あふれるエピソードが伝えられる。その人間味に満ちた個性や親しみやすさ、偶像化されたキャラクターから、インドでは今なお人気が高い。

□この項の主神

シヴァ

破壊の神。和名は自在天、大黒天。「第 1 の修行者」を意味する「アーディヨーギー・シヴァ」、ハタ・ヨガの始祖との解釈も。

シヴァの妻/パールバティー

愛と美の神。和名は烏摩妃(うまひ)、波羅和底(ぱあるばてぃ)。化身には、否定性の除去「ドゥルガー」、時の女神「カーリー」などがある。

シヴァの長男/ガネーシャ

シヴァの息子。富、智慧、幸福、障害除去の神。和名は歓喜天、聖天(しょうてん)など。象の頭を持つユニークな姿から、ヒンドゥー教の神として最も有名。パールバティーの体の垢を集めた人形に、命が吹き込まれて生まれた。が、初めてガネーシャに会ったシヴァは不審者と勘違いして、首をはねてしまう。その後、実は息子だったと知り、代わりにつけた頭が象だったと伝えられる。

シヴァの次男/スカンダ

シヴァの息子。軍神。和名は韋駄天。六つの顔と12 本の腕を持ち、槍を手にしながらクジャクにのった姿で知られている。

シヴァの仲間(三大神)/ブラフマー

創造の神。和名は梵天。東西南北を向いた四つの顔、4本の腕を持つ。インド哲学のブラフマンの神格化、擬人化されたもの。

ブラフマーの妻/サラスヴァティー

芸術と学問、智慧、弁説、音楽の神。和名は弁才天。腕は4本で、ヴィーナと呼ばれる弦楽器を持つ。その神性には諸説ある。

シヴァの仲間(三大神)/ヴィシュヌ(ヴィシヌ)

世界の維持神。和名は毘紐天。一般的な伝承では10の化身がいるとされ、仏教の開祖であるブッダも一人に数えられる。

ヴィシュヌの妻/ラクシュミー

幸運と美の神。和名は吉祥天女。座っている台座も、手に持っているものも蓮という、蓮づくしの美神として有名。

□トリムールティとは?

最高神であるブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの三柱を一つとする「トリムールティ(三神一体)」という概念がある。学説や宗派ごとに異なるが、宇宙の創造、維持、破壊という三つの機能が3人組という形で神格化されたものと解釈すると、その概念を理解しやすい。

【ヨガの考え方は“神”にも“GOD”にもマッチする】

ヨガは、同じインド発祥のヒンドゥー教や仏教、バラモン教、ジャイナ教を信仰する人達の間で普及してきた。ただ、インドにおける神は、宇宙を動かす力や概念、原理を示すもの。信仰者は神を崇め、懇願し、祈り、感謝し、さらに最高原理ブラフマンとの合一を目指す。その目的を果たす手段の一つガヨガと考えると関係性を理解しやすい。

一方、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教では、創造主として神「GOD」が存在する。日本では同じ「神」と表記されるが、実は概念も信仰形態も違う。特定の神への崇拝を前提としないヨガは、「GOD」への信仰と両立 できる。キリスト教大国のアメリカでヨガが普及したのも、教義に反する要素がなかったからだろう。

 

監修=ヴェーダプラカーシャ・トウドウ

「ヴェーダセンター」主宰。ヨーガ瞑 想教師、インド哲学・アーユルヴェーダ講師、インド政府公認プロフェッショナルヨーガ・インストラクター、同検定試験官、ヴェーダ詠唱家、心理相談員、産業カウンセラー、インド儀式祭司。4000人以上に瞑想を指導。