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ノーベル賞受賞の真鍋先生もやっていた!ポーズで「アライメント」が大事なワケ

ブランケットとベルトで肩立ちのポーズ

 

今年発表されたノーベル賞物理学賞を、日本人でアメリカ国籍の真鍋淑郎先生が受賞した。地球温暖化の予測を先駆的に行っていたこととして、世界的に大きな話題になった。もちろん、日本でもそのニュースは駆け巡り、真鍋先生についてのさまざまな情報が飛び交っていた。

その中の一つ、テレビの情報番組で放送されたワンシーンに釘づけになった。それは、真鍋先生が肩立ちのポーズをしている場面。ヨガが先生のライフスタイルの一つになっているという紹介だ。紹介されたのが逆転のポーズだったのも、また示唆的だった。頭を使う人にとって逆転のポーズは、やはり大きなリセットの意味があるということを彷彿とさせたからだ。

 

真鍋ファミリーは“ヨガ一家”だった!?

 

実はこの「真鍋先生のヨガ」を教えてくれたのは柳生直子先生だ。「真鍋先生がやっているヨガはアイアンガーヨガなのだと思うのよ」とのことで、二人でネット検索をしたのだ。そして、案の定! 真鍋先生は首にブランケットを当て、腕にベルトをかけて肩立ちのポーズをしていた。頭の先にはイスがあり、近くにブロックも置いてある。まさに、これはアイアンガーヨガではないか!

さらにネットサーフィンをすると娘さんの情報が出てきたが、それによれば、娘さんもアメリカ在住で、現在はオーガニックの農場をご主人と経営しているが、アイアンガーヨガの先生でありスタジオ運営もしていたとか。なんと、アイアンガーヨガファミリーだったのだ。

 

アイアンガー氏が作り世界的に広まったヨガ

 

アイアンガーヨガの創始者B.K.S.アイアンガー氏は、1937年、インドでアイアンガーヨガを教え始めると、日常生活で歪んだ骨格を整えていくスタイルに共感し、調整を望む多くの人が通い始めた。さらに、有名な哲学者であるクリシュナムルティにヨガを教えるなど、国内ではとても有名かつ信頼されていたヨギーになっていった。

1952年に世界的なバイオリニストであるユーディ・メニューインと出会い、ヨガを教えたことから、1954年スイスでヨガを教えることに。これが世界へのお披露目になったわけだが、その後、急速にアイアンガーヨガの知名度がグローバルになっていく。1956年には初渡米。『LIFE』誌にそのようすが紹介されるなど大きな話題になった。さらに1974年にはサンフランシスコに「サンフランシスコ・アイアンガーヨガ・インスティテュート」を設立するなど、アメリカ国内でもアイアンガーヨガは大きな人気を得ている。『Yogini』が創刊された当時出版されていたアメリカのヨガの写真集に出ているインストラクターも、アイアンガーヨガの指導者が多い。

アイアンガーヨガは、インド国内はもとより、ヨーロッパ、アメリカなど広く親しまれる身近なヨガになったのだ。

アイアンガーヨガが大事にする『アライメント』

 

アイアンガー氏の功績は数多くあるが、その一つがプロップス(補助道具)の考案だ。今や当たり前のように使うヨガマットは、アイアンガー氏がすべり止めのために考案したもの。そのためアイアンガーヨガの生徒は「スティッキーマット」、まさにすべり止めと呼んでいる。さらに、体に無理をせずにポーズを取るためにブロック(ブリック)やベルトなど、今のヨガには欠かせないプロップスを生み出している。

では、なぜプロップスを使いポーズを取る必要があるのだろうか? それは、「アライメント」と関係しているのだが、そもそもアライメントとは何だろうか? 日本のアイアンガーヨガの先駆者である柳生直子先生はこう語る。『Yogini』Vol.65から紹介しよう。

アイアンガーヨガはバランスを重視しますが、その前提は、体の屋台骨である骨格が正しい位置にあり、土台がしっかりしていることです。骨格が傾いたりズレたりしている時には、体全体にも歪みが生じ、内臓や筋肉も正常に機能しなくなります。土台が安定していて、背骨を中心に左右が対称になっている正しい姿勢、それを私達はアライメントと呼んでいます。

正しい姿勢が取れ、背骨がまっすぐに延びている時に、呼吸が一番しやすい状態になる。そして、呼吸が安定して深まっていくからこそ体内のエネルギーの流れがよくなり(プラーナーヤーマ)、プラティーやーハーラ(感覚制御)、ダーラナー(集中)の状態へと入っていくことが可能になる。これが心と体と呼吸が三位一体になる状態だ。ところがアライメントが崩れていると呼吸がしづらいので、その先の階段へと進むことができない。

(三角のポーズで)無理やり親指をつかむのではなく、手の下にブロックを置いてゲタを履かせてあげます。すると背骨がまっすぐに伸びて左右対称になり、呼吸がちゃんとできてポーズを深めることができます。なんとなく形ができているとか、体が伸びて心地いいとかではなく、完成ポーズには何を求めているのかを、指導者が知らせてあげることが大切なんです。

相手によって教え方を変えないと、かえってアライメントは崩れてしまいます。アイアンガー先生がすごいのは、体に対して人の何倍もの興味を持ち、尊敬の念を持ってあくなき追求をしていたこと。同じように、指導者はどういう勉強をしなくちゃいけないのか、自問自答し、学び続け、見る目を養っていく必要があるのです。

 

体にスペースを作る

 

「大切なのは体にスペースを作ること」だと柳生先生は話す。スペースとは多くの指導者が話すが、なぜスペースが必要なのかと言えば、それは呼吸をしやすくするため。

どんな姿勢になっても肺が適切な位置にあり、つぶされず、容量いっぱいに十分な呼吸ができている状態を保つために、プロップスを使って体を補うのです。体がその姿勢を自然と取れるようになれば、もうプロップスは必要なくなります」(柳生先生)

アライメントは体を整えた正姿勢のこと。それは呼吸を気持ちよくするために必要な調整なのだ。

「アイアンガー先生は伝統的なヨガを練習していくうちに、体を痛めたりいろいろな経験をされて、痛みを伴う体の動かし方は絶対にしちゃいけないって思われていたんですね。それで骨格や筋肉など解剖学を学び、無理なく正しい姿勢を取るためのプロップスを使い始めました。先生は厳しくスパルタ的でしたが、それは自分と同じような痛みや道外をしてほしくないという一心からだったということが、今となってよくわかります」(柳生先生)

 

 

アライメントを大切に、意識的にポーズを取ることは、ヨガを心地よく行い生命力と精神性を高めていくということでもとても重要な要素だ。個性にあったアライメント=正姿勢を体に教えることは、長くヨガを続け、その効力をしっかり引き出すためには大事なことだろう。真鍋先生がノーベル賞を取るに至った、その影に少しでもヨガが貢献しているとしたら、それは真鍋先生の心身のアライメントをヨガで整えていたことが影響したのかもしれない。そして、ヨガはそんな風に人生の伴奏者であってほしいと思う。

 

 

話してくれた人

柳生直子

やぎゅうなおこ。’80年、日本人で初めてインドのプーナでアイアンガーヨガを学ぶ。その後もヨガの研鑽を積む一方で、テレビの海外取材番組やCNNのンヒュースキャスターとしても活躍。アイアンガーヨガ上級指導者。

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